東京地方裁判所 平成3年(行ウ)175号 判決
東京都豊島区南長崎二丁目一四番五号
原告
磯部俊行
右同所
原告
磯部千枝子
東京都北区西ケ原三丁目二番一―三〇四号
原告
磯部繁通
右同所
原告
磯部智子
右原告ら訴訟代理人弁護士
大平恵吾
右復代理人弁護士
碓井清
東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号
被告
豊島税務署長 富田忠雄
右指定代理人
門西栄一
同
藤村泰雄
同
内倉裕二
同
渡辺進
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告が、原告らの昭和六三年一月一五日相続開始に係る相続税について平成二年一月三一日付でした各再更正及び過少申告加算税賦課決定について、
1 原告磯部俊行に対する再更正のうち課税価格四六三三万九〇〇〇円、相続税額一二三〇万四二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
2 原告磯部千枝子に対する再更正のうち相続税額一四一九万七二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
3 原告磯部繁通に対する再更正のうち相続税額五八六八万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
4 原告磯部智子に対する再更正のうち相続税額九四六万四八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
をいずれも取り消す。
第二事実の概要
本件は、母親の死亡によりその財産等を相続した原告らが、母親が生前に売買契約を締結した不動産について、これを同人の所有に属していた相続財産として相続税の申告等をしたところ、被告から右不動産の所有権は相続開始前には同人に移転しておらず、相続財産を構成するのは右不動産そのものではないとして各再更正処分等を受けたため、この各再更正及び各過少申告加算税賦課決定の取消しを求めて提訴した事案である。
一 当事者間に争いのない事実等
1 本件不動産取引の概要(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。その余の事実は当事者間に争いがない。)
(一) 株式会社スペースクリエート(以下「スペースクリエート」という。)は、昭和六一年一二月一〇日、原告磯部俊行が代表者であるダイワエンタープライズ株式会社(以下「ダイワエンタープライズ」という。)との間で、スペースクリエートが所有する宇都宮市川田町字塩の免八七六番二所在の宅地(以下「本件土地」という。)上に鉄筋コンクリート造り四階建ての家屋(以下「本件家屋」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を建築してダイワエンタープライズに引き渡すという土地付き建物売買契約(以下「当初契約」という。)を締結した。その売買価額は八億円とされ、その内訳は土地代金一億二九三六万九八〇〇円、家屋代金六億七〇六三万二〇〇円とされていた。(乙二号証の一、二、五)
(二) 昭和六二年五月八日、スペースクリエートからダイワエンタープライズに対して、本件土地につき売買を原因とする所有権移転登記がなされた。
(三) 当初契約は、昭和六二年一二月二九日にスペースクリエートとダイワエンタープライズの間で合意解除され、同日、スペースクリエートと原告らの母親である磯部幸子(以下「幸子」という。)の間で、本件不動産の買主を幸子とする土地付き建物売買契約(以下「本件売買契約」という。)が締結され、右契約日に売買代金のうち三億六〇〇〇万円がスペースクリエートに支払われた(実際には当初契約に基づいてダイワエンタープライズからスペースクリエートに支払われていた三億六〇〇〇万円を幸子がダイワエンタープライズから借り入れて支払ったものとして決済された。)。
(四) 幸子は、昭和六三年一月一五日に死亡し、原告らが幸子の財産等を相続した(以下「本件相続」という。)。
2 本件課税処分の経緯(当事者間に争いがない。)
原告らの本件相続に係る相続税の申告等とこれに対する課税処分等の経緯は別表一ないし四記載のとおりである。
すなわち、原告らは、昭和六三年七月一五日、本件相続に係る相続税について、当初申告をし、さらに、平成元年四月二八日に更正の請求をしたところ、被告は、同年五月一五日付けで原告らの請求内容に対応する各更正(以下「当初更正」という。)をし、さらに、平成二年一月三一日付けで各再更正(以下「本件各再更正」という。)及び各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。そこで、原告らは、同年三月二三日、本件各再更正及び本件各賦課決定について、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、同年六月四日付けで原告らの異議申立てを棄却する旨の決定をし、さらに、原告らは、同年七月四日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成三年五月二八日付けで原告らの審査請求を棄却する旨の裁決をしたものである。
3 本件相続に係る相続税の課税価格の内訳等
(一) 被告は、本件相続により、原告らが取材した財産、債務等の内容、取得割合、価額につき、本件各再更正においては別表五の「相続で取得した財産の価額」及び「債務等」各欄記載のとおりであるとし、本訴においては別表六の「相続で取得した財産の価額」及び「債務等」各欄記載のとおりであると主張する。そして、相続税の課税価格は別表五ないし七の各<13>記載のとおりであり、納付すべき税額は別表五及び六の各「税額算出表」記載の計算過程により、各<17>記載のとおりとなると主張する(本件各再更正と本訴で主張する課税価格及び相続税額はいずれも同額である。)。さらに、本件各再更正により新たに納付すべきこととなった税額に対して賦課されるべき加算税額は、原告磯部俊行については、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正後のもの。以下「通則法」という。)六五条一項及び二項により、本件再更正により新たに納付すべきこととなった税額に一〇〇分の一〇を乗じた金額と右税額に一〇〇分の五を乗じた金額とを加算した金額になり、その余の原告らについては、通則法六五条一項により、本件各再更正により新たに納付すべきこととなった税額に一〇〇分の一〇を乗じた各金額になり、別表一ないし四の各過少申告加算税欄記載のとおりとなると主張する。
(二) なお、右相続財産、債務等の内容については、本件不動産に係る部分を除いて当事者間に争いがない(別表五及び六の課税価格等の計算明細表の記載に即していえば、各別票の<3>ないし<5>欄記載の各財産の価額及び<9>欄記載の葬式費用の額については当事者間の争いがなく、同<1>及び<2>欄記載の財産の価額のうち、本件不動産の価額を除いた部分、<8>欄記載の債務のうち、本件不動産に係る債務を除いた部分についても当事者間に争いがない。)。
すなわち、原告らは、当初申告及び更正の請求において、本件不動産を相続により取得した財産とし、スペースクリエートに対する未払金を債務額に含めていたところ、被告は、本件相続開始時点において本件不動産の所有権は未だ幸子に移転しておらず、本件不動産そのものは相続財産に当たらないとして、本件各再更正においては、相続により取得した財産中、土地及び家屋の価額としては、原告らの更正の請求に基づく当初更正の金額から、本件不動産の価額として申告のあった金額を減算し、その他の財産の価額として、本件売買契約に基づく前渡金(当初契約の売買手付金及び中間金の一部)三億六〇〇〇万円(以下「本件前渡金」という。)を加えた上、債務の金額として、当初更正の金額からスペースクリエートに対する未払金として申告のあった二億二四九九万一七〇〇円を減算して計算した金額が課税価格であると主張し、また、本訴においては、土地及び家屋の価額は本件各再更正と同額として、その他の財産の価額を本件売買契約に基づく本件不動産の所有権移転請求権の価額八億円とした上、債務の金額として本件各再更正の金額に相続開始時点におけるスペースクリエートに対する未払金四億四〇〇〇万円(右売買価額八億円から本件前渡金を控除した金額、以下「本件未払金」という。)を加算して計算した金額が課税価格であると主張する。
二 本件の争点
1 本件の主たる争点は、本件不動産に係る部分が相続で取得した財産の価額、控除される債務等の価額としてどのように評価されるかという点である。
課税実務においては、相続財産の評価を迅速・公平に行うため、「財産評価基本通達」(平成三年に題名が改められる以前は「相続財産評価に関する基本通達」)の定めるところに従った評価が広く行われているが、これは所有権そのものについての評価であり、売買契約を締結した被相続人が所有権を取得する前に死亡した場合には、相続財産は債権である所有権移転請求権であるから、その価額は当該売買契約における取得額、すなわち、売買価格相当額として評価されることになる(そして、その場合、所有権移転を請求するに当たって支払うべき金員、未払金等があるときは、控除すべき債務の額となる。)。
本件においては、相続で取得した財産が本件不動産そのものか、本件不動産の所有権移転請求権かが問題となっており、結局、右争点に関しては、本件不動産の所有権移転時期が本件相続開始の前後、すなわち、幸子死亡の前後のいずれかという点が問題となるところ、この点に関する当事者双方の主張は以下のとおりである。
(一) 被告の主張
本件売買契約は、本件土地と本件家屋を一体として売買する土地付き建物売買契約であり、本件土地及び本件家屋の売買価額比並びに本件家屋の構造、規模等からみても本件売買契約の主たる目的は本件建物の取得にあるというべきである。そして、本件売買契約においては、本件不動産は売主が本件土地上に本件家屋を建築して完成させた後に引き渡されることになっており、また、中間金二億八〇九〇万円の支払時に売主から買主に本件家屋の表示登記に必要な書類が引き渡されることになっているのであるから、本件不動産の所有権は、本件家屋が完成して本件不動産の引渡しがなされたとき、あるいは、本件土地の所有権移転登記及び本件家屋の保存登記がなされたときに初めて買主である幸子が取得すると解するのが相当である。そして、本件相続開始時点では、本件家屋は未完成でその引渡しもなされておらず、また、右中間金等の支払がなされた経緯もなく、保存登記等もなされていないから、本件不動産の所有権を幸子が取得しているということはできない。したがって、本件相続に係る相続財産は、本件不動産そのものではなく、本件不動産の所有権移転請求権である。
(二) 原告らの主張
(1) 意思主義の原則によれば、特段の合意がない限り、目的物の所有権は売買契約の締結によって直ちに買主に移転するところ、本件売買契約においては、所有権の移転を留保するような特段の合意はなく、また、所有権の移転を妨げるような特段の事情もなかった。すなわち、本件売買契約時点においては、本件土地は地積等も確定して所有権の移転に何ら問題はなく、また、本件家屋も既にその本体は完成しており、単に内装工事と外廻りの工事が残っていたにすぎす、表示登記や保存登記ができる状態、つまり取引が可能な状態となっていたものである。
したがって、本件不動産の所有権は本件売買契約の締結により幸子に移転した。
(2) 仮に、本件不動産の所有権の移転時期に関しその引渡しの有無が問題になるとしても、幸子は本件売買契約締結と同時に本件不動産の引渡しを受けたものである。すなわち、本件土地については既にダイワエンタープライズに対して所有権移転登記がなされていたものであり、幸子は本件売買契約締結と同時にダイワエンタープライズから本件土地の引渡しを受けた。また、本件家屋についても前記のとおり、本件売買契約時点ではその本体は完成しており、内装工事は買主が別途他の業者に発注することとなったので、幸子は本件家屋の引渡しを受けた上でこれを内装工事業者に引き渡して工事を施行させたものである。したがって、本件不動産の所有権は、本件売買契約と同時になされた引渡しにより幸子に移転した。
(3) 仮に、本件不動産の引渡しが本件売買契約と同時になされたものでないとしても、遅くとも、幸子の死亡前である昭和六三年一月一四日には引渡しがなされた。すなわち、幸子は、同日までに本件家屋の表示登記及び保存登記に必要な書類を用意してこれを土地家屋調査士に交付し、遅くとも右同日までには本件家屋が完成しているものとして右表示登記等を依頼し、本件家屋は昭和六三年一月一四日新築として表示登記の申請がなされ、その旨登記されたものである。したがって、本件不動産は遅くとも昭和六三年一月一四日までに契約当事者間で引渡しがなされ、その所有権は幸子に移転した。
(4) 以上のとおり、いずれにしても本件不動産の所有権は本件相続開始前に幸子に移転しており、本件相続に係る相続財産は本件不動産そのものである。
2 その余の争点
原告らは、さらに、処分理由の差し替えや調査者の附記等の点も本件各再更正及び各賦課決定の違法事由となる旨主張する(なお、調査の際に東京国税局係官が関与したこと、本件各再更正の通知書に調査者の附記がないことは当事者間に争いがない。)ところ、これらの点に関する当事者双方の主張は以下のとおりである。
(一) 被告の主張
(1) 処分理由の差し替えについて
被告は、本件各再更正において、原告らが相続するその他の財産として本件前渡金三億六〇〇〇万円を計上しているが、右は本件売買契約における本件不動産の所有権移転請求権の価額八億円と本件未払金四億四〇〇〇万円の差額を純額で表示したものであり、本訴においては、所有権移転請求権と未払金をその他の財産と債務額の両建で表現したものにすぎない。
なお、いずれにしても、課税処分取消訴訟の審理対象は、当該処分の違法性一般であり、実体的には当該処分において認定された課税標準及び税額が総額において租税実体法によって客観的に定められるそれを上回らなければ、当該処分は適法となる。したがって、被告課税庁は、処分時の認定理由には拘束されず、訴訟における攻撃防御方法として口頭弁論終結に至るまで随時新たな主張・立証を行うことができるのであって、相続税に関して処分理由の差し替えが許されないとする原告の主張は失当である。
(2) 調査者の附記について
本件各再更正をするに当たっての調査(以下「本件調査」という。)には、東京国税局直税部資料調査第四課の係官が関与しているところ、平成三年大蔵省令第三五号による改正前の大蔵省組織規程(昭和二四年五月三一日大蔵省令第三七号、以下「組織規程」という。)一二一条に基づいて設置されている東京国税局直税部資料調査第四課は、<1>直接国税の課税標準の調査及び直接国税に関する検査に係る事務で、国税局長が必要があると認めた特定の事項に係る事務を指導監督し、これに必要な調査及び検査を行うこと(組織規程一二四条の二第四号)、<2>直接国税の課税標準の調査及び直接国税に関する検査で、当該調査及び検査を受ける者の所得の金額、事業の規模又は取得した財産の価額その他の状況に照らし、国税局長が特に必要があると認めた事項に係る調査及び検査を行うこと(同条の二第五号)、ほか四項目の事務を所掌することと規定されており、右関与は、組織規程一二四条の二第四号に基づき、調査事務等の経験の浅い豊島税務署係官の調査事務を指導監督するため、本件調査に同行したものにすぎない。このような指導監督に必要な調査及び検査を行った場合は、通則法二七条にいう「国税局の当該職員の調査」に該当しないから、その旨を本件各再更正の通知書に附記しなかったのは当然である。
(二) 原告らの主張
(1) 処分理由の差し替え等
被告は、本件各再更正において、本件前渡金が相続財産に当たるとして処分をしながら、本訴においては、本件前渡金ではなく、本件不動産に係る所有権移転請求権が相続財産に当たるとしてその主張を差し替えている。しかしながら、こうした理由の差し替えを認めることは処分庁の安易、恣意的な処分を招くことになり許されないというべきである。
そして、そうした差し替えが許されない以上、本件前渡金を相続財産としたことは明らかに誤りであり、本件各再更正は違法である。すなわち、「前渡金」なる用語自体その内容が不明確であるところ、これが既に支払われた手付金及び中間金を指すとすれば、これらの金員が財産でないことは明らかであり、前渡金返還請求権を指すとすれば、契約の解除等により返還請求権が発生していなければならないが、本件においてそのような事情はなく、返還請求権なるものは発生していない。
したがって、いずれにしても本件前渡金は相続財産となり得ない。
(2) 調査者の附記
本件調査においては、東京国税局職員が中心となって活動しており、同行した税務署職員は特に発言もせず、補助的行為しか行っていない。したがって、本件調査は、組織規程一二四条の二第五号に基づいて東京国税局職員が自ら行ったものであり、通則法二七条の「国税局の当該職員の調査」に該当する。右調査に基づいて更正等がなされたときは、東京国税局長に対して不服申立てをすべきことになるから(同法七五条二項)、更正等の通知書には国税局職員の調査に基づく旨を附記しなければならない(同法二八条二項)。しかしながら、本件各再更正の通知書にはその旨の附記がなく、本件各再更正には右附記を欠いた手続違背があるので違法である。
(3) 本件各賦課決定の違法
過少申告加算税は、明らかな過少申告の場合に限って賦課されるべきものであるところ、前記(1)のごとく被告すら見解の変わるような本件事案において、原告らにこれを課する本件各賦課決定は、通則法六五条の解釈を誤った違法なものである。
第三争点に対する判断
一 本件不動産の所有権移転時期について
1 特定物の売買契約による所有権の移転については、その移転時期についての特別の合意がない場合、売買契約締結により直ちに買主に所有権移転の効力を生ずるものと解されるところ、所有権移転時期の特別の合意の有無については、その旨の明示の合意に限らず、売買契約において最も重要な部分である代金の支払、所有権移転登記手続、引渡し等の時期をも考慮し、当該売買契約の内容に照らして合理的に判断されるべきものである。そこで、以下、本件不動産取引の経緯等について検討する。
2 前記争いのない事実及び認定事実に加え、証人川村郁夫の証言、原告磯部俊行本人尋問の結果のほか、適宜各項末尾に掲示した証拠によれば、本件不動産取引の経緯等については、以下の事実が認められる。
(一) スペースクリエートでは、同社で取得した本件土地上に、同社の親会社である川村建設株式会社(以下「川村建設」という。)に建物を建築させた上で土地付き建物として売却する計画を有していたところ、当時、ホテル事業経営に意欲を持っていたダイワエンタープライズとの間で話がまとまり、昭和六一年一二月一〇日、スペースクリエートが所有する本件土地上にホテルとして本件家屋を建築し、土地付き建物としてダイワエンタープライズに売り渡すという当初契約が締結された。右売買価額は八億円とされ、その内訳は土地代金一億二九三六万九八〇〇円、家屋代金六億七〇六三万二〇〇円とされていた(なお、スペースクリエートの本件土地の仕入れ価格は約一億六二五〇万円であったが、国土利用計画法の規制の関係で、土地代金を安くし、その分家屋代金に上乗せされた。)。右同日、ダイワエンタープライズからスペースクリエートに対して手付金として一億六〇〇〇万円が支払われた。当初契約の契約書によれば、残金は中間金として二億円ずつを二回(時期については協議する。)、残額二億四〇〇〇万円を所有権移転登記と引換えに支払うこととされており、住宅ローン等を斡旋する場合の金融機関としては泉総合ファイナンスとする旨が記載されていた。(乙二号証の一、二、五)
(二) その後、ダイワエンタープライズ側から、中間金の一部である二億円の支払をするについては借入れのため担保物件が必要であり、本件土地を担保としたい旨の要請があり、スペースクリエートでは、右中間金の支払を受けるために、本件土地の所有権移転登記を行って担保設定の便宜を図ることとし、昭和六二年五月八日、スペースクリエートからダイワエンタープライズに対して、本件土地につき売買を原因とする所有権移転登記がなされた。右同日、ダイワエンタープライズでは、泉総合ファイナンスから総額五億五〇〇〇万円の分割貸付を受け、そのころ、スペースクリエートに対して中間金二億円を支払った。なお、スペースクリエートの昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日までの事業年度分の法人税確定申告においては、本件土地についてはその売上に計上されていなかった。(甲八号証、乙二号証の一)
(三) 昭和六二年一二月二九日、当初契約はスペースクリエートとダイワエンタープライズの間で合意解除され、同日、スペースクリエートと幸子の間で、本件売買契約が締結された。右時点で、本件土地については、前記のとおり、既にダイワエンタープライズに対して所有権移転登記がなされていたが、売買当事者間で特に本件土地と本件家屋を別途に取り扱うような合意はなされず、本件売買契約も当初契約と同様に土地付き建物売買契約として本件土地と本件家屋を一括して扱うものとされ、また、代金額等も当初契約と同様とされた。
そして、ダイワエンタープライズからスペースクリエートに既に支払われていた三億六〇〇〇万円については、幸子がダイワエンタープライズから借入れをしてスペースクリエートに支払った形にして処理され、契約書には契約日に手付金として三億六〇〇〇万円の支払がされた旨記載された。
本件売買契約において、買主は、中間金として二億八〇九〇万円を昭和六三年一月二〇日までに支払うこととされ、本件家屋の表示登記に必要な書類は、右中間金の支払時に売主から買主に引き渡されることとされていた。
本件売買契約時点においては、本件家屋の躯体は、ほぼ完成していたものの、内装工事、外廻り工事等は未了であった。客室内装工事については、原告磯部俊行から、契約上の本件家屋分の代金が高額すぎる等の不満が出されたこともあって、その工事については川村建設が原告磯部俊行の紹介する建築業者に下請けに出すこととなり、本件売買契約においては、客室内装工事代等は一億二九一〇万円とされ、その支払時期は出来高払とされた。
また、本件売買契約においては、本件家屋の引渡時期は昭和六三年四月二五日までとされ(契約書には不動文字で「本物件を引き渡すとともに、所有権移転登記手続一切を完了しなければならない。」と記載されていたが、本物件が当該建物と書き直され、所有権移転登記手続についての記載が抹消された。)、残金三〇〇〇万円は本件家屋の完成・引渡し後七日以内に支払うものとされた。
さらに、本件売買契約締結の際に、本件家屋の鍵の引渡し等は特になく、本件家屋の引渡しに関する書類等も作成されなかった。
なお、幸子は昭和五六年ころから、子宮癌で入退院を繰り返しており、本件売買契約締結当時も入院中であったため、本件売買契約の交渉、締結等は、専ら原告磯部俊行が行っていた。(甲一号証、一〇号証の一、二、乙二号証の一、四ないし七)
(四) その後、昭和六三年一月一五日に幸子が死亡するに至るまで、前記中間金、残金等の支払はなされず、中間金二億八〇九〇万円が支払われたのは、同年二月一〇日であった。また、内装工事代金は、ダイワエンタープライズからスペースクリエートに対して、同月一九日から同年七月ころまでの間に数回に分けて支払われた。さらに、同年六月二八日に、今後売主側は本件家屋等については関係がなく責任を負わないという線引きをしたいとのスペースクリエートの要請により、幸子の相続人代表として原告磯部俊行が署名・押印し、建物引渡年月日として同日が記載された上、「上記建物建築主立会異常なきに付き引き受け致します。尚残金は七月一一日支払うものとする。」旨記載された建物引受書(乙二号証の八、以下「本件建物引受書」という。)が作成され、スペースクリエートあてに交付された。そして、残金三〇〇〇万円が支払われたのは右引受書記載のとおり、同年七月一一日であった。スペースクリエートでは、昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度分の法人税確定申告において本件不動産の売上を計上した。(甲一一、一二号証、一三号証の一ないし六、乙二号証の一、八)
(五) 本件土地について幸子への所有権移転登記がなされたのは、昭和六三年一月二九日であり、登記原因は真正な登記名義の回復とされていた。本件家屋の登記に関しては、昭和六三年一月ころから、原告らが必要書類等を準備していたが、必要書類等が完備したのは、幸子死亡後であり、本件家屋の内装等が未了のため、建物の種類が必ずしも確定されないこともあり、本件家屋の表示登記がなされたのは、同年四月一一日であり、保存登記がなされたのは、同月一九日であった。(甲八、九号証、一四号証の一、二、一六ないし一九号証、二〇号証の一、二、二三号証)
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
なお、原告らは、本件売買契約においては、本件家屋の内装工事は幸子自らが他の業者に依頼して行うことになっており、内装工事代金一億二九一〇万円は幸子が負担するものとして売買代金から除外され、本件家屋の建築工事から内装工事は切り離されていた旨主張し、甲六、七号証及び原告磯部俊行本人尋問の結果中には、これに沿った記載部分及び供述部分もあるが、右各部分は、乙二号証の一の記載及び証人川村郁夫の証言に照らして直ちには信用し難い。
3 右認定事実を前提として、以下、本件不動産の所有権移転時期について検討する。
(一) 本件売買契約は、ホテル事業経営のため、売主所有の土地に家屋を建築して土地付き建物として購入するという契約であり、本件土地と本件家屋を一体として売買の目的としており、本件土地及び本件家屋の売買価額構成比等からみても、契約の主たる目的は本件家屋の取得であるとみることができる。そして、右契約時点において本件土地の地積等は確定していたものの、売買の主たる対象である本件家屋は未だ完成していないこと、本件家屋の引渡時期については、昭和六三年四月二五日とされていること、代金は手付金三億六〇〇〇万円が支払われていたのみで、中間金二億八〇九〇万円の支払期日は同年一月二〇日とされ、本件家屋の表示登記に必要な書類は、右中間金支払時に売主から買主に引き渡すとされていること、残金は、本件家屋の完成引渡後、七日以内に支払うこととされていること、また、本件売買契約書(甲一号証、乙二号証の七)では、買主が右中間金及び残金の支払を怠ったときは、売主は無催告で契約を解除できる旨が規定され、さらに、本件不動産に係る収益及び負担の帰属、付属の権利義務の移転時期、危険負担等はいずれも引渡しの前後によって決せられる旨規定されていること等からみると、本件売買契約においては、本件家屋が完成して本件不動産の引き渡しがなされたとき、あるいは、本件土地の所有権移転登記及び本件家屋の保存登記等が完了したときに、本件不動産の所有権が移転する旨の特約があったものと解すべきである。
原告らは、本件家屋は本件売買契約時点で既に完成しており、その内装工事は幸子が別途他の業者に依頼することになっていたから、本件売買契約のおいては、所有権移転時期についての特約はない旨主張する。
しかしながら、本件売買契約時点において、本件家屋はその躯体がほぼできあがっていたものの、内装工事、外廻りの工事が未了であったことは前記認定のとおりであり、原告らのいう建物の完成とは、本件家屋が不動産と認定できる程度にできあがっていたというにすぎず、本件売買契約の目的とされている本件家屋が契約上予定されていた程度の完成の域に達していたといえないことは明らかである。
なお、仮に、原告らの主張するように、本件売買契約時点では、本件建物の内装工事を買主側で別途行うこととされ、実際の売買代金は八億円から内装工事代金を控除した額であるとしても、このこと自体から直ちに本件売買契約において所有権移転時期についての特約がなかったということはできない。すなわち、本件建物は全体として未だ完成しておらず、内装等がある程度なされなければ、建物の種類も確定せず、表示登記を行うことも困難であったこと、本件売買契約は、専ら本件不動産の買主を幸子に変更するために、本件不動産の所有権移転が契約後になされることを前提とした当初契約をいったん合意解除する形にして、当初契約を基礎として締結されたものであり、売買代金から内装工事代金を除いたとしても、中間金及び残金の支払及び本件家屋の引渡しも契約後とされ(なお、原告らは、本件売買契約書記載の引渡時期の記載は形式的なものにすぎない旨主張するが、いずれにしても本件家屋の引渡しが契約後に予定されていたものであることは後記(二)(2)のとおりである。)、本件家屋の保存登記はもちろん、表示登記も未了であり、表示登記は契約後直ちに行うということではなく、中間金の支払時に表示登記に必要な書類を引き渡すこととなっていたことなどからみると、本件家屋の内装工事を買主側で行うこととなっていたとしても、そのことをもって、本件売買契約においては、当初契約と異なり、本件家屋を契約上は既に完成した建物として扱い、契約の締結により所有権を移転するといった当事者の意思があったということはできない。
右によれば、いずれにしても、原告らの主張は採用できない。
(二)(1) そして、本件売買契約締結時から幸子死亡の時までの間に、幸子への本件土地の所有権移転登記、本件家屋の保存登記等がなされなかったことは、前記認定のとおりであり、また、本件家屋の引渡しがなされなかったことも、前記認定事実に照らせば明らかであるというべきである。むしろ、前記中間金の支払時期、本件家屋の保存登記等の時期、及び昭和六三年六月二八日に本件建物引受書が作成されたこと等に照らせば、本件家屋が引き渡されて本件不動産の引渡しがなされたのは幸子死亡後であるというべきである。なお、原告磯部俊行本人尋問の結果中には、本件建物引受書は売主側の依頼により内容等を検討することなく署名・押印した趣旨の供述部分があるが、乙二号証の八によれば、本件建物引受書の残金支払時期の記載につき、当初七月一〇日と手書きで記入された日付け部分が七月一一日と訂正され、訂正部分に原告磯部俊行の訂正印が押捺されており、原告磯部俊行本人尋問の結果中には、右残金支払時期の訂正は、原告磯部俊行の申し出によりなされた旨の供述部分もあることに照らせば、本件建物引受書の内容等を検討せず署名・押印した旨の右供述部分は到底信用できない。
(2) 原告らは、仮に、本件不動産の所有権移転につき、その引渡しを要するとしても、前記のとおり、本件家屋の内装工事は買主側で発注することとされており、本件売買契約締結時点で本件家屋は幸子に引き渡され、幸子から内装工事を行う業者に引き渡された旨主張する。
しかしながら、本件売買契約時点では本件家屋の鍵等の授受もなされず、引渡しに関する書類等も作成されなかったこと、本件売買契約書においては、本件家屋の引渡時期が昭和六三年四月二五日と記載されていること等の前記認定事実に照らせば、本件売買契約時点で本件家屋の引渡しがなされなかったことは明らかである。なお、原告磯部俊行本人尋問の結果中には、本件売買契約書記載の引渡時期は、内装工事代を川村建設の売上金に計上するため、内装工事代を売買価格に含めて記載した関係で、買主側が行う内装工事の終了予定時期を形式的に記載したものにすぎない旨の供述部分があるが、一方では、そのような事情がなければ、右契約書の引渡時期は、中間金の支払時期である六三年一月二〇日と記載していたであろう旨の供述部分もあり、いずれにしても右供述部分をもって、本件売買契約締結時に本件家屋の引渡しがあったと認めることはできない。
さらに、原告らは、少なくとも本件土地については、既にダイワエンタープライズに対する所有権移転登記がなされており、本件売買契約書においても、その引渡義務の規定中の「本物件」の不動文字を消し、あえて「当該建物」と記載し直して本件土地が除外されていることにかんがみれば、本件売買契約時点で、幸子に対する引渡しがなされていた旨主張する。
しかしながら、本件売買契約が、土地付き建物売買契約として本件土地と本件家屋を一体として売買の目的とするものであること、また、売買当事者間で土地と家屋の引渡等を別途に行うというような合意がなされていないことは前記認定のとおりであり、そうであるとすれば、本件土地の引渡しは、原則として本件家屋の引渡しと共に行うとするのが当事者間の合理的な意思であったというべきである。なるほど、本件売買契約の契約書においては、引渡義務に関する規定について「本物件」という不動文字が「当該建物」と修正されているが、同条項中の所有権移転登記手続に関する部分も削除されていることからすれば、右修正等は、本件土地のダイワエンタープライズに対する所有権移転登記が既になされているため、右規定中の売主がなすべき所有権移転登記手続に関する部分が不要となり、本件家屋の引渡しという行為とは別に本件土地の実際の引渡行為を観念することが困難になったことによるものともみられるから、これをもって、直ちに、本件土地の引渡しについては本件家屋と切り離して扱う旨の当事者間の合意があったと認めることはできない。なお、ダイワエンタープライズに対して本件土地の所有権移転登記がなされたのは、前記認定のとおり、ダイワエンタープライズが融資を受ける必要からら担保設定の便宜のためになされたにすぎないものであり、また、その融資を受けた先も当初契約において指定されていた金融業者であるから、右所有権移転登記がなされたことをもって、売主であるスペースクレエートが本件土地に関するダイワエンタープライズの自由処分等を認めたとみることも困難である。
(3) また、原告らは、仮に、本件売買契約時に幸子に所有権が移転していないとしても、幸子死亡前である昭和六三年一月一四日ころまでには、前記中間金の支払がなされる予定であり、本件家屋の表示登記の必要書類も準備され、右各書類においてはいずれも本件家屋の完成・引渡時期は右同日とされていることなどからみて、契約当事者間では、遅くとも同日ころまでには本件家屋の引渡しがなされた旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、右中間金の支払が実際になされたのは、同年二月一〇日になってからであり、仮に、原告ら主張のように中間金の支払と同時に本件家屋の引渡しをする予定であったとしても、実際に中間金の支払が遅れた場合にも、なお、引渡しを先行させる旨の合意があったとまでは考えられず、その後、本件建物引受書が作成されていること等に照らしても、同年一月一四日までに本件家屋の引渡しがなされたと認めることはできない。
なお、証人川村郁夫の証言中には、昭和六三年一月上旬ころ、幸子死亡前に買主に書類等を渡し、引渡しを行った旨の供述部分があるが、右供述部分にはダイワエンタープライズに対する本件土地の所有権移転登記に関する供述も含むなど曖昧な部分も多く、また、建物の引渡しにより今後は売主側は関係がなく責任を負わないという線引きのために本件建物引受書を作成したとの供述もあることに照らせば、ここでいう引渡しとは、本件家屋の引渡しではなく本件家屋の表示登記のための書類の引渡しにすぎないとも考えられること、さらに、その書類についても、幸子死亡前に渡したとする書類には、甲一八号証の証明書、甲一九号証の承諾書等が含まれるものとみられるが、同各号証によれば、右各書類の作成日付はいずれも幸子死亡後の日付(甲一八号証は昭和六三年一月二〇日、甲一九号証は同年二月三日)となっていること、右証言中には右各書類において建物の工事完了・引渡しに関して記載してある昭和六三年一月一四日という日付はいずれも売主側で記載したものではない旨の供述部分もあること等に照らせば、幸子死亡前に本件家屋の引渡しをした旨の前記供述部分は直ちには信用しがたく、右供述をもって、昭和六三年一月一四日までに本件家屋の引渡しがなされたものと認めることはできない。
4 以上のとおり、いずれにしても、本件売買契約においては所有権移転時期についての特約があり、本件不動産の引渡し、幸子に対する本件土地の所有権移転登記及び本件家屋の保存登記等はいずれも幸子死亡の時までに行われなかったのであるから、幸子は、その死亡の時までに本件不動産の所有権を取得したものとはいえず、本件売買契約に基づく本件不動産の所有権移転請求権を有していたにすぎないから、原告らが本件相続によって取得するのは本件不動産の所有権移転請求権ということになる。
二 処分理由の差し替えについて
課税訴訟において処分の適法性の有無は、当該処分が処分時に客観的に存在した課税標準又は税額の範囲内でなされたか否かによって決せられるところ、当該処分が客観的な課税標準又は税額の範囲内でなされたことを理由あらしめる主張は、単なる攻撃防御方法にすぎず、原則として口頭弁論終結に至るまで随時主張し得るものと解される。もっとも、法が処分に当たって処分理由の明記、すなわち、理由附記を求めているような場合には、右処分理由の差し替えについて一定の制限が生ずることがあり得るが、相続税の場合には、更正等の処分につき処分理由の附記を求める規定は相続税法及び関係法令等をみても存在しない。
したがって、処分理由の差し替えが許されないことを前提に、本件前渡金をその他の財産とした本件各再更正の違法をいう原告らの主張は、その余の点を判断するまでもなく採用できない。
三 調査者の附記について
本件各再更正の通知書に調査者の附記がないこと及び本件調査に東京国税局の係官が関与していたことは当事者間に争いのないところ、乙第三号証によれば、右関与は組織規程一二四条の二第四号に基づき、調査事務等の経験の浅い豊島税務署係官の調査事務を指導監督するために本件調査に同行し、指導監督に必要な調査等を行ったものであり、事案の最終的な取りまとめ及び処理は豊島税務署において行われていると認められるから、本件調査は通則法二七条にいう「国税局の当該職員の調査」に該当しないというべきである。
原告らは、本件調査に同行した豊島税務署係官が発言もせず補助的行為しかしなかったことをもって、本件調査が東京国税局の係官による調査である旨主張するが、本件調査における東京国税局係官の関与は、経験の浅い豊島税務署係官の調査事務の指導監督のために行われたものであるから、調査の主体はそうした発言の多寡等の具体的行為のみによって直ちに判断し得ないというべきである。
なお、仮に、本件調査が東京国税局係官によって行われたものであるとしても、通知書にその旨の附記がなされていなかったことのみをもっての、本件各再更正自体が違法となるとはいえないというべきである。
通則法二七条の国税局の当該職員等の調査に基づく更正等の場合にも、更正等を行うのはその所轄税務署長であるが(同法三〇条一項)、これに対する不服申立ては、右税務署長の管轄区域を所轄する国税局長が処分をしたものとみなして、いわゆる実質処分庁である右国税局長に対して異議申立てをすることができる(同法七五条二項)こととされている。同法二八条二項が、同法二七条の調査に基づく更正等の場合にその旨の附記を要求しているのは、そうした実質処分庁に対する異議申立ての便宜のためにすぎないのであり、仮に更正等の通知書に右附記を欠く手続違背があったとしても、そのことのみによって、直ちに更正等の処分自体が違法とはならないと解すべきである。すなわち、右附記を欠くことによって、被処分者に更正等の処分自体を違法ならしめるような格別の不利益が生ずるわけではなく(なお、通則法七五条二項一号によって国税局長がなした処分とみなされる場合には、同条一項二号の規定により、国税局長に対する異議申立てと国税不服審判所長に対する審査請求のいずれかを選択できるとする見解もあるが、同条二項が「各号に掲げる行政機関の長が処分をしたものとみなして」と規定しているのは異議申立先を明らかにするためであり、同条一項一号のかっこ書に明らかなように同条一項は同条二項に規定する処分を除外しているとみられること、同条四項において、同条二項一号の処分を含め、一般的に異議申立てを経ないで審査請求ができる場合を別途規定していること等に照らせば、右見解は採り得ないから、右附記の欠如によって不服申立方法の選択権が奪われるものでないことは明らかである。)、右附記の欠如のため、異議申立ての相手方を誤り、不服申立手続等が遅延する、あるいは、不適法な異議申立てとして却下される等の不利益が生ずることが考えられるとしても、そうした不利益は異議決定等の違法事由として考慮されるにとどまり、更正等の処分自体の違法事由とはならないというべきである。
また、本件において、原告らは、本件各再更正に対する不服申立てを豊島税務署長に行っているが、このことによって、原告らに格別の不利益が生じたともいえないから、結局、仮に右附記の欠如という手続違背があるとしても本件各再更正の違法事由とはならないというべきである。
四 以上のとおり、本件相続により原告らが取得することとなるのは、本件不動産の所有権移転請求権であるから、原告らの課税価格等の明細は、別表六の課税価格等の計算明細表記載のとおりとなり、その各課税価格は、同表<13>記載のとおりとなる。そして、原告らが納付すべき税額は相続税法一五条ないし一七条(ただし、同法一五条二項及び三項並びに一六条のうち同条の表を除く部分については昭和六三年法第一〇九号による改正前のものを適用する。)によれば、同表の「税額算出表」記載のとおりの計算により同表<17>記載のとおりの額となる。右金額はいずれも本件各再更正の額と同額であり、その余の本件各再更正の違法をいう原告の主張も採用できないから、本件各再更正は適法である。
五 そして、本件各再更正によって原告らが新たに納付すべきこととなった税額に対する各過少申告加算税は、通則法六五条一項、二項によれば、被告主張のとおりの計算により被告主張額と同額となる。
なお、前記のとおり、原告らは、過少申告加算税は明らかな過少申告の場合に限って賦課されるべきであり、被告も見解の変わるような本件時案においてなされた本件各賦課決定は違法である旨主張する。
過少申告加算税は、申告等に係る課税標準等又は税額等に対する更正等により、新たに納付すべき税額が生じた場合、原則として賦課されるものであり、更正等において納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正等前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分については賦課されないことになるにすぎない。原告らの主張する被告の見解の変遷とは、結局、被告が本件不動産に関する相続財産として、本件各再更正では本件前渡金としながら、本訴においてはその所有権移転請求権としたことを指すものと解されるが、このことをもって、右正当な理由が存在するといえないことは明らかであり、原告らはそれ以上に右正当な理由の存在について主張・立証をしないから、原告らの右主張は採用できない。
したがって、本件各賦課決定も適法である。
六 以上によれば、本件各再更正及び本件各賦課決定はいずれも適法であるから、原告らの請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)
別表一 本件課税処分の経緯 (磯部俊行)
<省略>
別表二 本件課税処分の経緯 (磯部千枝子)
<省略>
別表三 本件課税処分の経緯 (磯部繁通)
<省略>
別表四 本件課税処分の経緯 (磯部智子)
<省略>
別表五 本件再更正処分の内容
(課税価格等の計算明細表)
<省略>
(税額算出表)
<省略>
別表六 本訴における被告の主張額
(課税価格等の計算明細表)
<省略>
(税額算出表)
<省略>
別表七 原告らの更正の請求に基づく当初更正額及び本件再更正額並びに本訴における被告の主張額との比較
<省略>